発熱のこと
院長です。
発熱は小児科外来で多い主訴です。開院から6か月経ち、自分の小児科医として基本に立ち返るつもりで思ったことや調べたことを書いてみます。
◎発熱とは
定義は国や法律、論文によって違います。日本では「37.5℃以上が発熱」、「38.0℃以上が高熱」で、「微熱は37.5~38.0℃だが、37.0℃~とすることもある」。
英語論文では文献により、だいたいlow grade feverは37.5℃前後、moderate grade feverは38℃以上、high grade feverは39℃以上です。日本ではhigh grade feverの概念がなく、「高熱」が低めに設定されているのはおもしろいところです。
◎発熱恐怖症
1980年に「発熱を過剰におそれる親」として提唱された概念です。論文ではfever-phobiaと記載されます。少なくともこの5か月間に受診された方では見たことはなく、むしろ「元気だったので解熱薬は使いませんでした」という人たちもそこそこいます。論文では知的水準に影響を受けると書いていたりするので、この周辺は知的水準が高い地域なのかもしれません。
◎解熱薬を使用するかどうか
ずっと議論されている問題なので論文をいくつかpick upします。
・1994年 日本の小児を対象 解熱薬を使った人は肺炎・気管支炎になりやすい
・1997年 マラリアの小児患者を対象 解熱薬を使わない人は1日くらい治癒が早い
・2005年 感染症のICU入院患者(おとな)を対象(ランセット)
目標を38.5℃以下と40℃以下に振り分けたら、38.5℃以下の群で死亡者増加
・2015年 感染症のICU入院患者(おとな)を対象 (NEJM) 解熱薬と偽薬で差なし
・2023年 東大のマウスの実験 (Nature)
38℃以上になるとある種の腸内細菌が増え、胆汁酸産生が増加して肺炎を改善
大人とこどもとマウスの違いは無視できないので、結果の解釈にはそれなりのリテラシーが求められます。解熱薬は使ってもよいが、適応はhigh grade feverであり、38℃台は感染症の治癒や悪化の抑制に必要なので使用しない方がよい、という感じでしょうか。
過ぎたるは及ばざるがごとし。
